めまぐるしいこの日常に幸せを | ナノ


▼ 風間





「風間先輩ー!みてください!」



突如、後ろから声をかけられる。

風間は慣れた様子で後ろを振り向くと相も変わらず笑顔の絶えない後輩が立っていた。
隊服では無く、真新しい学生服を着込んでおり、どうぞその事を指摘し下さいと言わんばかりの表情を浮かべている。
風間にとっては懐かしい服装であり、思わず目を瞬いた。

「ほお、俺と同じ所の制服だな。六頴館か?」
「その通りです!どうです?似合ってます?」
「ああ」

男である月丘がふわりとスカートをなびかせるのはもはや気にすることでも無い。

彼がこうであるのは日常でしかないからだ。

風間の同意にですよねー!と褒めてくれるのが嬉しいのか、ぴょんぴょんと飛んではしゃぐ姿に風間は顔をゆるめる。
もう同じ部隊では無いものの、風間にとっては月丘はずっと大事な後輩だ。
ふと、彼の髪が肩につくまでのびていることに気付く。

昔はもう少し短かったのにもうこんなにものびたのか、と考えながらも顔を近づけ風間はすっと手をのばす。

「随分とのびたな」
「へ。…あ、ああ、そうですね」

風間の目を見てはいなかったのか。月丘は彼の行動に面食らい、言葉が淀む。だが風間は気にしない。
キチンと手入れされた月丘の髪が風間の指に撫でる。柔らかな感触が気持ちが良く、何度も絡みつけては滑るように離れていくのが不思議と楽しい。
髪はつんつんとしている風間にとってはあまり味わえない感覚なためか、髪を撫でる行為を月丘に止められるまでやめようとしなかった。

「か、風間さん…」
「ん?……ああ、悪かったな。つい気持ちがいいものだから」
「べ、別に大丈夫ですけど…、そんなに気になります?」

頬を朱に染めて、言いよどみながらも月丘は自分の髪を不思議そうに触る。
髪に隠れた耳にも熱が篭もっており、恐らくこんなにも髪を触る人だと間近に居なかったのだろう。
嫌だ、と言わない辺り、羞恥心よりも嬉しさが勝ったようだ。

「まあ、そうだな。俺には味わえない感触だからな……」
「へえ…じゃあ、のばしておきますよ!風間さんがいつでも触れるように」
「ふっ、有難い事だな」

冗談まじりな月丘の言葉に風間の口元がほころぶ。どこまでも自分のことを慕う彼の姿は実に微笑ましく、風間は昼飯を奢ってやると提案する。

「高校生になった記念だ」
「ほんとですか!えー、そうですね……じゃあじゃあ、お寿司!」
「構わんがあまり食べすぎるなよ?」
「食べませんよ〜」


ボク少食なんで!と胸を張り、威張ることなのかと風間は考えたが指摘はせず、近くの回転寿司の場所を頭に浮かばせていた。



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